TOKI's HOUSE

第一話 朝の始まり

すべての世界には『扉』がある。
扉を開けることでその先へ進める。
しかし、一度開いた扉は閉めることができない。
誰かが通るまで扉が閉じることはない。
扉の向こう側にある可能性の断片。
そこへ進むかどうかは各々の判断による。
では『扉』を開けたまま、先へ進まずに引き返した場合はどうなるか?
『扉』は待ち続ける。
選ばれた意味を知るその時まで。

開いているな。

あぁ、開いている。

可能性はこちら側だけでなく、向こう側からも開いている。
扉を選び求めたもの、その先にあるもの。
開けた人間が望んだ入り口は、希望なのか絶望なのか。

見える。我を望む心の声が。

呼んでいる。次元の狭間から。

生も死も、世界が違えば価値も違う。
空間が違えば形も違う。



ある時、少年は『扉』を見つけた。



眠りから覚め、体を起こすとそれがあった。
目に見えるものは黒い球体。
宙に浮かぶ黒い球体。
部屋に現れた黒い球体。
ぼんやりと少年は右手を伸ばす。
手は球体に触れることはなかった。
その直前に少年の体に吸い込まれるようにして消えていった。
少年は何事もなかったように横になり、再び眠りに落ちた。



もう一つ同じように黒く、立方体の形をしたものが窓の外に浮かんでいる。
球体と同時に現れたそれは少年の視界にはいることはなく、ただそこにあるだけだった。
朝日が昇ると、黒い異質な立方体は見えなくなっていった。



ある朝、いつものように少年は目が覚めた。
枕元から少し離れた机の上にある目覚まし時計がジリリリと鳴っている。
「ふぁ~あ・・・」
大きくあくびをして起きあがると、ベッドから降りて時計のベルを止める。
目立つ寝癖がついた頭をボリボリかいた後、軽く体をひねって筋肉をほぐす。
その後、机の脇にあるパソコンの電源を入れてから椅子に座る。
パソコンの起動が終わるまでの間、ディスプレイの隣に置いてある小さな鏡を見て自分の顔を確認する。
(よし、今日も健康的な顔だな。あ、寝癖だ。直すの面倒くさいなぁ。)
などと考えつつ、起動したパソコンでメーラーを立ち上げメールチェック。

【新しいメールはありません】

「今朝は無しか。」
独り言をつぶやいて席を立つ。
昨夜読みかけだった本を本棚にしまってから部屋を出る。
パソコンの電源は入れたままだ。



少年は階段を下りて台所へ。



「あ、光純みつよしおはよう。」
「おはよう、お母さん。」
母親はちょうどテーブルの上に朝食を並べ終えたところだ。
そしてエプロンをはずして椅子に座る。
目玉焼きと野菜サラダ、そしてご飯にみそ汁がとてもおいしそうに並んでいる。
「お父さんは?」
少年も続いて座った。
「今朝は早く会社に行ったわよ。」
「忙しそうだねぇ。」
言いながら、少年は箸を持つ。
「んじゃいただきまーす。」
そのまま目玉焼きを口に入れて食べ始めた。
「はいどうぞ。」
そして母親も続いて朝食へ。
素っ気ない会話だがいつものことだ。



この髪の毛がまだ乱れている少年、赤桐光純あかぎりみつよしは市内の高校に通う二年生。
下に同じ学校に通う高校一年生の妹をもつ長男である。
少年の容姿について述べるなら、全て普通といったところか。
目立って背が高いわけでもなく、顔がいいわけでもない。見た目はどこにでもいる高校生だ。
だが妹の目には格好良く見えるようで、いつも友達に兄自慢している。
そのせいなのか、時々彼の知らない女子生徒に陰からコソコソ見られていることがある。
少年は気にしていないように振る舞っているが・・・朝、鏡を見るようになったのはなんでかな。

妹の名前は赤桐奈留美あかぎりなるみ。ポニーテールが基本スタイルの元気な高校一年生。
男子生徒から注目を集めるほどの成長著しい2つの山脈がこれでもかと主張しているが、本人は邪魔だと思っている。
顔立ちも整っており、街を歩けば大抵の人は目を奪われるだろう。
既に本人の知らぬところでファンクラブが出来つつあるほどだ。
そんな奈留美なるみは朝の早い時間、部活のために家を出ている。
今頃は学校の陸上トラックをランニング中のはずだ。



母親、赤桐沙智子あかぎりさちこは現在専業主婦をしている。
結婚するまでいろいろな仕事を経験しているらしいが、その話をすることはほとんどない。
いろいろと噂はあるのだが・・・
病院で働いていた、研究所で働いていた、変な学校で働いていた、等。
どれも当てはまるとは思えない。まぁ噂なので。
でも包丁を扱う手つきに時々違和感を感じる。たまに逆手に持つのはなんでだろう。

父親、赤桐仙龍あかぎりせんりゅうは、普通の会社員だ。
「まぁ、なんとかなるさ。」で大体の仕事はこなしてしまう、出来るタイプの人。
無意識にやる眼鏡クイッが部署内で密かな人気だったりする。



いつの間にやら二人とも朝食を食べ終えていた。
時刻はまもなく7時になろうとしている。
少年が冷たいウーロン茶を飲みながら目線をテレビに向けると朝のニュースをやっていた。
どこかの学校の校庭から、異質な鏡が突き出ているのが見つかったらしい。それもかなりの大きさだ。
最近こんな感じのことが立て続けに起こっているらしく、どこもこの手の話題で持ちきり。
テレビにラジオ、新聞でも連日のように報道されている。

「どうなってるのかしらねぇ。」
「いいんじゃないの、戦争の話題なんかよりも平和でさ。」
「そうねぇ。そういえば冷蔵庫にヤクルト入ってたわよ、飲む?」
「んー、飲む。」




場所は変わってニュース報道されていた現場



「いやーしかし、なんだってんだろうな、これ。」
ヘルメットをかぶった作業服姿の男性が、たばこを吸いながら問題の鏡を見てつぶやいた。
「まったくだ。わけわかんねぇもんが次から次へと出てきやがる。」
もうひとり、同じくヘルメットで作業服の男性が無精髭を触りながら答えた。
「「うーん・・・」」
そして目の前にそびえ立つ高さ7メートルはあろうかという巨大な鏡を見上げ、二人の男性は腕組みをした。
彼らを含めて、十数名の作業服姿をした男性達はこの異常な物体を掘り起こし回収するために集められている。
傷を付けずにとある研究施設へ運ぶようにと依頼されただけで詳しい内容は聞かされていない。
他には、いかにも研究員か学者ですと言わんばかりの白衣を着た人たちがいろいろな機械を持ち込んで作業をしている。
年代測定やら物質構造の解析、出現した場所の地理的情報等々様々な情報を集めていた。

この鏡と思われる異常なものは、ほぼ円形をしており、縁の部分には装飾が施されていた。
発見された時と同様、大体3分の1くらいが埋まっている状態で地面に刺さっている。
校庭に現れた謎の鏡は太陽の光が反射して美しく輝いていた。



「このように現場周辺では、関係者以外立ち入りできないよう厳重な警備がなされています。
今回の件も、今までと同じく突如出現したものであり、現在も専門家が調査をしている模様です。
いったいあの鏡のようなものは何なのか、何が起ころうとしているのか、謎は深まるばかりです。」
今朝のスクープ映像を流そうと、たくさんの取材陣がレポートをしている。
学校の敷地の周りは目隠しのために用意された壁と、警備員ではなく自衛隊と思われる人によって囲まれている状態。
学校周辺は報道関係の人々であふれており、野次馬もかなりの数が集まってきている。
そのため学校へ来た生徒は中に入れず周りをうろうろ。
ちょうどその時、校門の前に「本日は特別休校」という内容の張り紙が張られた。
場所が学校の校庭なので、調査やその他もろもろのために今日だけ休みになるそうだ。
こんなことになってしまい学校側も対応に追われて大変な様子。
騒ぎが落ち着くまでの間、この学校を含め周りは落ち着かないだろう。

ちなみに現場は少年が通っている学校ではないため普通に授業がある。



テレビ画面はいつの間にかスポーツニュースに変わっていた。

少年は歯磨きをしている。寝癖は直し済みだ。
奥歯を念入りに磨いている時、部屋にあるパソコンでは変化があった。
画面には【1件の新着メールがあります】と表示されている。

From : 念炭
Subject : 例の件

念炭だ。
今朝のニュースはもう見たか?
結論だけ言う。今回のが「本体」に間違いない。
変化が有ればまた報告する。

以上



少年宛のメールのようだ。

あとがき

学生時代に書いたオリジナル小説です。
多少直しましたけど文才ないのでこれが限界。
いろいろな作品の影響は受けまくっていると思いますけど兎姫的にはオリジナルで書いているつもりです。
プロットなし、設定資料は名前のみ!
当時、脳内で描いたストーリーは覚えてないので、これを読んで妄想を膨らませて第二話に続く予定!